アルトの世界

ナレーションと語り*

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裏声日記

芥川龍之介作「蜘蛛の糸」

いくつの時に学校で学んだのかは覚えていない。

しかし、芥川龍之介といえば「蜘蛛の糸」と最初に言えるほど有名で

かつ

「朗読」といえば「蜘蛛の糸」みたいなイメージも持っていた。

そのため冒頭の文章

「ある日のことでございます」

ここだけは記憶しているほどだ。

しかし、その「蜘蛛の糸」をすごく面白い小説だとは認識していなかったし、朗読についても、綺麗に音読するための練習本?みたいな認識だった。

さて、去年、コロナになり最初の緊急事態宣言が発令されたとき、先輩ナレーターの前塚さんに

噛んだら終了のオンライン版やりましょうよ!

と持ちかけた。

前塚さんも賛成してくれて、先輩たちやナレーター仲間に呼びかけてzoomイベント「噛んだら終了」を開催することに。

そのとき、2人で選んだ題材が

「蜘蛛の糸」

だった。朗読の王道にたくさんのトラップを仕掛けて、見る人に楽しんでもらうことに。

お陰で久しぶりに「蜘蛛の糸」と向き合うことになった。

改めて読み返してみると、それはそれは面白く、しかも長さがちょうど良い。

なんで今ひとつ興味を持たなかったのだろう?年齢を重ねて良さがわかったのかだろうか。

いやいやそうではない。

世の中の「蜘蛛の糸」の朗読が、あまりにもつまらない音読ばかりだったのだ。

または、素晴らしい朗読に出会えなかったのだ。

噛んだら終了のイベントは無事面白い展開になり、私は主催者にも関わらず、ワースト3位に入賞するダメっぷりに終わった。

こうしてイベントを通じて「蜘蛛の糸」を読み、改めて「面白い朗読」に仕上げるためにはどうすれば良いのか?

を考えるようになった。

そこで、朗読レッスンの教材に使用することに。

生徒たちに読ませると、案の定つまらない(失礼ながら)朗読ばかり。

「ある日のことでございます。お釈迦さまは、、、」

気取って読み始める生徒に

それ誰?この語り手は誰だと思う?

ここから考えてもらうことになった。

そして、ひとつひとつの映像をいかに立体感持ってイメージするか?など、私も一緒に考えながら世界を膨らませていった。

さて。

ここで登場するのが、大先輩のナレーター。工藤恭造さんである。

工藤さんといつ知り合ったのかは覚えていないが、確か東日本の震災のあとくらいに、なにかのイベントで

「下間ちゃん手伝ってくれる?」

と、工藤さんの読む短い朗読の、たぶん語りを私が協力した。

協力を依頼されるくらいだから、その前から知り合いだったのだろうが、覚えていない。

その後、工藤さんは、私のうっかりBARでの朗読初めに毎回エントリーしてくれた。

ところが、ぜんぜん練習してこないで、その場で即興的に朗読する。

ほぼ、パフォーマンスと声の勢いだけなので

なんだかなぁ、、、と苦笑してしまう。

本当はすごく上手くて声もかっこよくて、練習してきたらめちゃくちゃ良いのに!

そこは「真面目にやるよりこの方がこの場には合うでしょ?」との考えだそうで、それはそれで仕方ないと思っていた。

ただ、かなり天然のおとぼけオジサンで、お客さんにサプライズでベテランメンバーで1作品披露することにしていたのに

工藤さんがネタバラシを早々にしてしまう!というイラつく出来事もあった(笑)

そんな工藤さんが、去年の夏の初め頃、SNSに自身が癌に侵されていることを投稿した。

余命宣告は持って1年。

ショックだった。

これはまずい。万一抗がん剤治療などしたら、もう工藤さんの朗読は聞けないかもしれない。

私はリアルに予想して、是非とも対症療法にして少しでも長く普通の生活を続けてほしいと願った。

しかし、工藤さんは抗がん剤治療を始めた。

しばらく入院したものの、一旦退院した工藤さんは

奇跡的に、以前から出演する予定だった怪談イベントの舞台に立った。

8月の下旬のことである。

そのとき、彼が朗読したのが

「蜘蛛の糸」

だった。

ちょうど私が生徒たちに蜘蛛の糸の初回レッスンをした直後のことだった。

私はそのイベントを見に行けなかったのだが、行った人から絶賛の声が届いた。

「魂の語りだった」

見られなかったことが残念でならなかったが、なんとその数日後

工藤さん自身がその様子を録画したものをSNSにアップしてくれた。

素晴らしかった。感動するほど素晴らしい朗読、、、というか語りだった。

先に書いたが、工藤さんは語り手を「極楽の番人」と設定し、オリジナルの台詞もまじえながら

ある時は釈迦の思いを、ある時はカンダタの思いを、そして第三者である番人の目線を、繊細に使い分けて地獄と極楽の世界を表現した。

カンダタの台詞などは、まさに今、自分を地獄へと引き込もうとしている癌に向かって叫ぶかのように

壮絶かつ必死の罵声を浴びせ

糸が切れた瞬間、まっさかさまに落ちていく様が怖しいほどリアルな光景となって浮かんでくる。

こんなにも迫力ある「蜘蛛の糸」を、あの工藤恭造が全身で語っている。

嗚呼、ここまでは無理かもしれないけれど、朗読でも近いレベルまで表現したい。

朗読のレッスンでは、しばらくは内容と世界に向き合う指導を進め

ある程度わかってきたかな、という段階で、初めて工藤さんの映像を見せた。

もちろん工藤さんには許可を得て。

生徒たちもさすがに自分の朗読とはまるで違う表現に驚いた様子で、その後少し上達してくれた。

今朝届いた工藤恭造さんの訃報。

半年余りの闘病。

もう一度舞台に立ちたい!という強い意欲はずっとあった。

今年の朗読初めがあればエントリーするからよろしく!と何度もメールに書いていた。

コロナが終息していて、もし今年も例年通りうっかりBARでの朗読初めがあったなら

それを意欲に這ってでも稽古してくれただろうか。

もう1週間。もう10日。長生きしただろうか。

工藤さんはもういない。

それでも、あの魂の語り。

工藤恭造の「蜘蛛の糸」は幸いにもまだ存在する。

私たちの、そして、これからのちもずっと、後輩たちにとって素晴らしい手本として残すべき動画。

https://www.facebook.com/kyozo.kudo/videos/3218504941560882/?

工藤さん。なにもできなくて、ごめんね。

「下間嬢の心優しきメッセージ!感謝感謝です。でもトホホなことにこの世を去ることになりましたゾ。また会う日まで。ニコニコのKUDO より(^^)」

こんなお返事いただけるかな。

 

 

 

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