食卓を囲む
施設にいる叔母93歳のようすがおかしいと、先週土曜日に連絡があった。
内臓はいたって元気だが、完全に痴呆が進んで
ほぼ喋れないし、誰が誰かもわからない。
その叔母が、ほぼ寝ていて食べなくなってしまった。
口から食べなくなると、いずれ死ぬ。
もうそろそろあちらに行かせてあげたい気持ちもあり
点滴などで引っ張るのはやめることにしている。
調整すればなんとかなるのに、ついつい足が遠のいていたが
慌ててスケジュールを見ると、今日なら可能だった。
親族のLINEグループに投稿すると
叔母の孫娘もいけると言う。
さらに、甥っ子が我が家に来ることになっていたので
この甥っ子も連れていくことにした。
叔母は、苦しそうではなく、ただ寝ている。
私たちはベッドの周りで話しかけてみる。
時々目が開いた。
こうしてそのうち息が止まるのか。
ぼんやり考えながら、ひとまずみんなで声をかけあった。
そのうち、夕飯の時間になり、介助スタッフがやってきた。
ベッドを起こして、入れ歯をはめようとしたが、口を固く閉じて、眠り始めた。
「いやみたいやねぇ。じゃあ、歯がなくても良いもの食べてみる?」
と、スタッフさんが聞いたが、叔母は目をずっと閉じたまま。
「あー眠っちゃったねぇ。仕方ないね」
再びベッドを倒した。
んんんん?ほんとに寝てる?さっきまで起きてたやん。
入れ歯がいやだったから嘘寝してるんじゃないの?
ふとそう思って
「れいこちゃん!それ寝てるふりやろ。」
私は言った。
そして、手をにぎると、ぎゅっ握り返してきた。
起きてるやん。
「れいこちゃん綺麗だねー。水分摂らないとカサカサなるよ。お肌カサカサになるからなんか飲む?」
目が開いた。
「あら!もう一度起こしてみよか」
スタッフさんが起こして、とろみのついたりんごジュースを口に入れた。
「わ!飲んだ!」
一同声をあげて「えらーい!」
その間、布団の中で私の手をぎゅっと握る。その力はすごく生きようとしている意志を感じる。
「そうよ!飲まなきゃねぇ。ワカメも食べたら?」
ワカメ のペーストを今度はひとくち。
「あら、あまりお好みではないみたい(笑)」
とはいえ、髪の毛にいいよ!と声がけすると
もうひとくち。
私たちが来るまでなにも食べなかったのに。
「やっぱり家族の力はすごいですねぇ」
スタッフさんが言った。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
こんなにも良くしてくれていても、私たちが協力するかしないかで変わるのだ。
叔母はその後、私たちが帰ろうとすると、パッチリ目を開けて「帰るな」光線を出してくる。
「やーん、帰れないやん!」
また来るからね、と何度も声をかけて、後ろ髪を引かれる思いで施設をあとにした。
1人きりで食べる味気ない食事なのか
家族一緒に食べる食事なのか
こんなにも違う。
93年も苦労しなが生き、晩年はここに閉じ込められて、喜びも感じなくなっていると思った叔母だが
少しでも今日の夕飯は良い時間になったかもしれない。
88歳の誕生日にみんなで集まってお祝いした。
まだ外にも出かけられた頃だった。
もう、お店で食べることもできないけれど
せめてせめて、こんな時間をもう一度。と思う。
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