アルトの世界

ナレーションと語り*

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裏声日記

消えた記憶

人は、本当に辛いことや苦しいことがあったとき、記憶に蓋をしてしまうことがあるらしい。

岡崎かつひろさんは、子供の頃の記憶がほとんどないという。

確か、胃潰瘍かなにかで、とにかく苦しい日々だったそうで

「その頃の記憶がないんです」

とのことだ。

私の叔母がアルツハイマーの症状が出始めたのはかれこれ10年ほど前だと思う。

一人暮らしだったので、気づいた時にはかなり進行していた。

お金の使い方がおかしくなり、日付がわからなくなり、満腹中枢も機能しなくなった。

火の元が危うくなり、家に帰るのに迷うようにもなった。

しっかり者で、1人で海外に出かけるのも得意な、お洒落な叔母だったからショックだった。

このアルツハイマーに至ったのにはきっかけがある。

叔母にとっては甥にあたる、私の兄が死んだことだ。

叔母は早くに離婚したのだが、1人娘を自死で亡くした。

それからは私の兄を息子のように可愛がって、色々と頼っていた、、、

その、息子のような存在の甥っ子が、またもや自死という形でこの世を去った。

叔母は何度も「可哀想なことをした」と嘆いた。

兄の死後も、兄家族にはなにかと贈り物をしたり、連絡したり気にかけていたが

以前のようなアクティブな生活からはずいぶん遠ざかってしまった。

そして、思い出したくない記憶を、順に消していったのだ。

忘れられたら良いのに、と思うほど辛いことってあるよね。

今日、叔母の入所している施設に面会に出かけた。

姉と、叔母にとっては孫娘と、その子供と。

コロナになって会えなくなって、徐々に叔母は誰が誰かが認識できなくなってしまったが

赤ちゃんや小さい子供を見ると明らかに表情が変わる。

今日も、一瞬、目が大きくなり、笑顔のような表情を見せた。

今はほとんどベッドの上で寝たきりだし、ずいぶん痩せたが、顔の色艶は良いし皺もほとんどない。

内臓が元気な証拠。食べることはまだ忘れないらしい。

よく喋ってくれるのだが、入れ歯の具合が悪いのか、何を言っているのかわからない。

必死に解読しようと試みるが暗号のような言葉が続く。

唯一聞き取れたのが「美味しいチョコレート」

みんなで「チョコレート?」顔を見合わせ笑った。

あれはどういう意味だったのだろう。

コミュニケーションは取れないが、私たちも話しかけ、脚をさすったり、手を握ったりしながら

叔母さんは可愛いなぁ。

と、しみじみ思った。

一緒に暮らしたこともあったが、それはそれはキツイ人で、若い頃は苦手だった。

目の前にいる叔母は、可愛いとしか思えないのが不思議だった。

どんな気持ちで生きているのか?

生きるってなんなのか。

そんなことを考えた、ゴールデンウィーク最終日でした。

 

 

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